ふたりの視線がこちらに向けられたため、千鶴は居住まいを正す。
「千鶴、こっちの堅物そうなのが城之内。こっちの大きくて厳ついのが雨宮。ふたりとも俺と同じ外務省に勤めている外交官だよ」
「おい、随分雑な紹介だな」
伊織はこれまでの挨拶回りよりもかなりフランクな対応をしている。親しい間柄なのだろうという想像通り、彼らは伊織と同期入省らしい。伊織の知らない一面を見られた気がして嬉しくなり、千鶴は頬を緩ませた。
「彼女は日高千鶴さん。俺の婚約者」
そんな彼らにも『婚約者』として紹介され、千鶴はぎょっとしつつ「初めまして」と頭を下げる。
「初めまして。日高さん、ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます」
当然のように祝福され罪悪感を覚えるが、なんとか笑顔で応えた。
城之内はドイツ、雨宮はオーストリア、そして伊織はフランスとそれぞれ別の国に赴任していたけれど、ずっと定期的に連絡は取り合っていて、今はちょうど三人とも日本にいる貴重な時期だという。同僚というよりも、友人といった方が近い存在のようだ。



