「い、伊織さん。さすがに近すぎです……!」
「独占欲の強い婚約者なら、このくらい当然だよ」
これではエリックを騙す前に、千鶴がドキドキしすぎて倒れてしまいそうだ。恋愛初心者だとパリの夜に打ち明けているのだから、少しは手加減してほしい。
適切な距離を取ろうとしても腰を抱かれているため叶わず、伊織は追い打ちをかけるように千鶴の頭にキスを落とす。
そして、恐ろしい形相でこちらを睨みつけているエリックに爽やかな笑みを見せた。
『……失礼する』
エリックは大きな舌打ちをすると、苛立たしげに去っていった。
(お、終わったの……?)
完全にキャパオーバーに陥り、結局はエリックの前で婚約者らしい振る舞いはなにもできなかったが、結果オーライということでいいのだろうか。
呆然としていると、伊織から「大丈夫?」と顔を覗き込まれた。



