熱っぽい眼差しの真意がわからず気になって仕方ないものの、接客を疎かにはできない。千鶴は雑念を振り払い、笑顔で仕事を続けた。
その一時間後――。
個室から少し離れた廊下で、千鶴はエリック=オベールに困惑させられていた。彼はダニエルの息子で、私設秘書としてともに来日したらしい。
『君、可愛いね』
囁きながら壁際に追いやられ、千鶴は仰け反るように彼と距離をとった。フランス語なのでなにを言っているのかはわからないが、彼はパーソナルスペースが狭いのか、ぐいぐい顔を近付けてくる。
どちらかといえば丸いフォルムのダニエルとは違い、エリックはスラリと長身で癖のあるブロンドヘア。白い肌に青い瞳、高い鼻と、千鶴がフランス人と聞いて思い浮かべるままの容姿をしている。
「お客様、どうされました? あの、ご気分でも……」
『派手なのは飽きたし、たまには君みたいな従順そうなのも悪くないよ。ヤマトナデシコって言うんだろ?』



