上機嫌なダニエルとは対照的に、徐々にエリックの表情が険しくなっていくのが見て取れる。
「ではマドモアゼル。もう少し彼の惚気を聞いてやりたいが、少し失礼します。ここの料理人も君の父上に負けずいい仕事をする。ぜひ楽しんでいってください」
「お気遣いありがとうございます」
ダニエルは千鶴に朗らかな笑顔を向けると、別の招待客の元へと去っていった。しかし、エリックは父に付き従っていくことなく、こちらに険のある視線を向けたままだ。
『店に行った時には、そんな素振りはなかったはずだけど』
『私も彼女も仕事中でしたから。美しい仕草で料理や酒の説明をしてくれる彼女に見惚れて、あなた方への通訳が疎かになってはいけないでしょう?』
『これまで僕が落とせなかった女はいない。邪魔するための茶番はよせ。どうせ父の側近に言われたんだろ?』
『茶番なんて心外ですね。お疑いなら、彼女との出会いから魅力まで詳しくお聞かせしますよ』
伊織も口元に笑みを浮かべているが、先ほどダニエルに向けていた穏やかな表情とは別人の鋭い眼差しをしている。
心配になって彼を見上げると、彼は千鶴の視線に気づき、目元を和らげた。



