「伊織さん、あの――」
「西澤くん」
振り返ると、そこにいたのは今夜の主催者であるフランス大使ダニエルだった。その少し後ろには、苦虫を噛み潰したような表情のエリックも控えている。
彼を見た瞬間、身体に緊張が走る。全身にぎゅっと力が入り、頬も引きつってしまいそうだった。
すると、伊織に軽く背中をぽんぽんとたたかれる。ちらりと彼を盗み見ると、大丈夫だと言わんばかりに笑顔で頷いてくれる。
(そうよ。ここで伊織さんの婚約者だと信じてもらえれば、きっと私への興味は失せるはず)
伊織の励ましのおかげで、少しだけ身体のこわばりがほどけた。千鶴も彼に微笑みを返す。
「大使、本日はお招きいただきありがとうございます」
「今回はよく働いてくれたね。君のおかげで、フランスと日本がAI業界でトップに躍り出る日が見えてきたよ」
「いえ。リュカとのコネクションを作ってくださったエリックさんのおかげです」
先ほどのダニエルの開会の挨拶に出てきたリュカ=小笠原という男性は日本とフランスのハーフで、IQ180以上の天才と呼ばれている。リュカの研究室では十年先のAI技術が構築されており、彼が表舞台に登場することでAI技術は格段に進歩するだろうと言われている。



