眉を下げて苦笑した千鶴に、高野は鷹揚に笑った。
「なんてことはない集まりだ、楽しめばいい。近々、妻と観劇の予定があるんだ。また寄らせてもらうよ」
「はい。お待ちしております」
「西澤くん。千鶴ちゃんは気立てのいい子だ。大切にしてやりなさい。妻を最優先にするのが家内安全の秘訣だ」
「肝に銘じます」
高野が上機嫌で去っていくのを見送りつつ、千鶴は物言いたげに彼の横顔を盗み見た。
その後も挨拶を交わすたび、伊織は相手に千鶴を紹介する。こういったレセプションやパーティーに伊織が顔を出すのは珍しくないが、同伴者がいるのは初めてのことらしく、誰もが興味津々といった顔で話を振ってくるのだ。
そして伊織は完璧に恋人役を演じ、周囲を信じ込ませていく。演技と知っている千鶴さえドキドキしてしまう微笑みを、真実を知らぬ人が見抜けるはずもない。
「本当は娘を紹介したかったのだが……」という壮年男性も複数いて、その後ろには必ず綺麗な女性が控えていた。
どういう意味の『紹介』なのか、きっと伊織は気付いているだろう。けれど女性の名前を聞き終えるとすぐに千鶴の話にすり替え、いかに運命的な出会いだったのかを語る。



