策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


伊織から初めて名前で呼ばれ、心臓がドキッと大きく跳ねた。彼を名前で呼ぶのも恥ずかしかったけれど、呼ばれる方がもっと恥ずかしい気がする。

顔が赤くなり、胸がときめいて仕方がない。心なしか伊織の耳も少し赤くなっているように見えたけれど、彼は海外で働いていた外交官だ。ファーストネームで呼び合うのに慣れているため、こんなことで照れたりはしないだろう。

(少しくらいドキドキしてほしいっていう、私の願望かも)

伊織が迎えに来てくれた瞬間から、千鶴の胸は高鳴りっぱなしだった。

彼は今日の午後、千鶴のドレスを選ぶためにレセプションの開始よりも数時間早く千鶴の自宅へやって来た。自分の着物で参加するつもりでいたが、伊織がそれを止めたのだ。

『エリックは清楚で従順そうだという理由で〝大和撫子〟に興味を持っているみたいなんだ。ひだかでも着物で給仕していたし、今日は和装じゃない方がいいかもしれない』

そう聞かされては、とても着物で行く気にはなれない。なるべくエリックの興味を引かないようにしたかった。

そこで千鶴は伊織の運転する車でソルシエールの本店へと向かい、何着ものドレスの中から今夜の一着を選んだ。