(私が憧れているのは〝一晩だけの綺麗な思い出〟じゃない)
千鶴が本当に欲しているのは、自分が『生涯その人だけ』と思える人と幸せな結婚をすること。いくら伊織に恋をしたからといって、明日別れるのが決まっている彼に身を任せるなんてできそうにない。
「気を遣わせてしまってすみません。でも、リップサービスを本気にするほど騙されやすくはないんですよ?」
気まずい雰囲気にならないよう笑って告げると、伊織はふっと息をはく。
「そうだよな」
ひと言だけ呟き、そしてすぐにいつもの笑顔を浮かべた。
「タクシー来たな。ホテルまで送るよ」
「……はい」
あっさりと引いた彼が今なにを考えているのか、千鶴にはわからない。誘いにのらなかった自分をつまらない女だと感じているのか、特になんとも思っていないのか。



