アルコールの力も手伝って誰にも話したことのなかった憧れや願望を吐露してしまったが、ふと我に返り恥ずかしくなる。
「す、すみません。どうでもいい話をペラペラと」
「……いや」
その後、運ばれてきたデザートとコーヒーまで堪能し、マテリエルをあとにする。結局、ここでも千鶴は財布を出すことはなかった。
ホテルに戻るタクシーに乗るため、乗り場までふたり並んでゆっくりと歩く。冷たい夜風が頬を撫で、ワインで熱くなった頬を冷ましてくれる。
千鶴の恋愛観を話して以降、どことなく気まずい雰囲気が流れている。互いに会話はするけれど、上滑りしている感じが拭えない。
ドレスアップして素敵な料理を楽しむ場で出す話題ではなかったと、今さらながらに後悔した。
千鶴は気を取り直し、改めて伊織にお礼を告げる。
「またごちそうになってしまってすみません。それに、今日は本当にありがとうございました。西澤さんと一緒だったから、パリの街を最高に楽しめました」
せっかく厚意で一日付き合ってもらったのに、最後に気まずいまま別れるのは嫌だった。精一杯の笑顔を作り、心から感謝を伝える。



