策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「二十八にもなって恥ずかしいんですけど、私の理想というか、子供の頃からの憧れがあって……」
「その話、聞きたい」

伊織に促され、千鶴は口を開いた。

「兄は三年前に結婚したんですけど、奥さんは幼なじみなんです。私にとって親友で、彼女は子供の頃からずっと一途に兄を想っていました。私の両親は高校の同級生らしくて、母にとって父が初めての恋人だと聞いています」

いきなり家族の話をし始めた千鶴に、伊織は怪訝な顔をすることなく耳を傾けてくれる。その優しさとアルコールの勢いに背中を押され、千鶴は目を伏せたまま自分の子供じみた夢を初めて口にした。

「ひとりの男性だけをずっと想い続けて幸せそうにしているふたりを見て育ったせいか、私も初めて付き合った人と結婚したいっていう願望が捨てられないんです」

学生の頃から、恋愛の先には結婚があると思っていた。淡い恋心が芽生えたとしても、果たしてこの人と結婚して一生寄り添っていけるだろうかと考えてしまう。慎重になりすぎた結果、誰とも付き合えないまま今に至る。

「昔は友人に誘われて合コンに参加したこともあるんですけど、やっぱりこういう考え方は重いって引かれちゃうだろうなって思うと、なかなか一歩が踏み出せなくて」