「に、西澤さんはナンパ男なんかじゃないじゃないですか。そもそも日本でもモテないのに、フランスでナンパの心配なんてありません」
千鶴が断言すると、伊織は大げさにため息をつく。
「……自分の魅力に気付いてないのか。ここに来るまでだって、一体どれだけの男が君のドレス姿に見惚れていたと思う?」
気に入らないとでも言いたげな口調に、ほのかな独占欲を感じる。勘違いだとわかっているけれど、心の奥がくすぐったくなった。
「そんなわけないですよ」
「それに、今はいないにしても過去には恋人だっていただろう?」
「……いえ。実はいないんです」
驚いた表情の彼を見て、やはりこの年まで誰とも付き合ったことがないのは珍しいのだろうと気まずく感じた。
これまでの人生で、全く誰にも告白されなかったわけではない。中学も高校も共学だったし、専門学校時代も女性の方が多かったけれど、男子生徒も三割ほどはいた。
男性が苦手なわけでも、恋愛や結婚に興味がないわけでもない。むしろ逆だった。



