策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「元々は祖父母が作った会社なんだ。もう弟があとを継いでるから、俺とは関係ないんだけどね。祖母もずいぶん前に引退して、あの通り小さな店を自分でやってる」
「そうだったんですか」

実家が会社経営をしている恵まれた環境にいながら、外交官という道に進んで身を立てている伊織を眩しく感じる。そう伝えると、彼は嬉しそうに笑った。

そこから、互いの仕事について話が弾んだ。伊織は以前アメリカの大使館で働いており、和食など日本の食文化の普及を進める部署にいたこともあるらしい。千鶴が和食の素晴らしさ、店での接客の難しさや楽しさを語るのを、伊織は楽しそうに聞いてくれる。

「すごいな。料理や酒の知識だけじゃなく、接客のために新聞やニュースも欠かさずチェックしてるのか」
「欠かさずというほどじゃないんですけど、お客様の中には政治に関わっている方や企業の中枢を担う方もいらっしゃるので」

ひだかに来る客は、女将や仲居との会話を楽しみにしている人が多い。そのあたたかい空気を大切にしたいため、千鶴はどんな話題にも対応できるように勉強を怠らないようにしている。

「英語も独学で勉強したんだろ? すごい努力だ。日高さんは仕事が好きなんだな」
「はい。私にとって、とても大切な場所です」
「俺もいつか行ってみたいな」

そう笑う彼に、心をぎゅっと鷲掴みにされる。