千鶴は首をかしげた。
「食べ方も上品で綺麗だし、スカルペッタに抵抗ありそうだったから。それに、今日一日一緒にいて、人に優しいのは心に余裕があるからなのかなって」
「実家が料亭をしているんです。だから多少食事マナーには厳しかったかもしれませんが、お嬢様ではないですよ」
そういう伊織こそ、見ず知らずの千鶴を助けてくれただけでなく、食事や観光に付き合ってくれる優しさがある。こういった店に慣れていそうなのも、支払いを女性にさせないのも、もしかしたらセレブゆえの振る舞いなのではないだろうか。祖母を『お祖母様』と呼ぶなんて、まさに上流階級の生まれのようだ。
そう尋ねると、伊織は肩を竦める。
「実家が多少名の知れた会社を経営しているんだ。ソルシエールっていう女性ファッションブランドなんだけど、知ってる?」
「もちろん知ってます」
可憐さと上品さを兼ね備えたブランドで、千鶴も何着か持っている。価格設定は高いけれどそれに見合う質のよさがあり、着るだけで気分が上がる素敵な服ばかりだ。



