策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「ごめんなさい。私、西澤さんの恋人ではないんです。お会いしたのも今日が初めてで……」
「えっ?」

驚く奈津子に、千鶴は今日の出来事を説明した。

「まぁ。そうだったの。あの子の千鶴さんを見る目がとても優しかったから、てっきりお付き合いをしているものと思ったわ」
「すみません。きちんと説明しなかったせいで勘違いをさせてしまって」

奈津子が張り切って千鶴を変身させてくれたのは、きっと伊織の恋人だと思っていたからだろう。

「伊織に怒られてしまうわね。これから口説くのに余計なことを言うなって」
「口説くなんて……。私と彼ではとても釣り合いません」
「あら、伊織では千鶴さんの恋人として不合格かしら?」
「まさか! 逆です。西澤さんのように優しくて素敵な男性には、もっとお似合いの女性がいるはずですから」

紛れもない千鶴の本心だったが、言いながら胸の奥が鈍く痛んだ。

スリに遭いそうなのを助けてくれたのはもちろん、お節介を焼いた千鶴を見て『心が美しい』と言ってくれたこと、行けなかったエッフェル塔に付き合ってくれた優しさ、必ず車道側を歩いてくれるスマートさ、千鶴をからかう時の笑顔。

一緒に過ごしたたった半日でも、伊織の素敵な部分をたくさん見つけられた。