策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


このお店でドレスを購入しろという意味だろうか。

言われてみれば本場のフレンチレストランへ行くのに、今の千鶴が着ているカジュアルな服装ではレストランに入れないだろう。

だからといって、今夜の食事のためだけにドレスを買うなんて発想はなかった。

(でも、たまにはこういうのもいいかも)

専門学校を卒業し、実家である『ひだか』で働き出してからはずっと仕事一筋だった。

休みの日に友人と遊びにいくことはあるけれど、お金のかかる趣味はないし、ブランド品にも興味がない。実家暮らしのため、家に生活費を入れているものの貯金は貯まる一方だ。

このフランス旅行も懸賞で当たった旅行券を使っているので、交通費と宿泊費は無料。

せっかく非日常の時間を過ごしているのだ。自分へのご褒美として少しくらい贅沢をしてもいいような気がする。

(価格がわからないのがちょっと怖いけど、カードもあるしなんとかなるかな)

千鶴がそう決心するのと同時に、伊織がくるりと踵を返した。