策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


ムッとした表情で店の奥から出てきたのは、六十代くらいの日本人女性だった。細身の身体にフィットする黒いワンピースを纏い、サラサラのロングヘアをオールバックのポニーテールでまとめている。

どうやら怒っている振りだったらしく、彼女はすぐに嬉しそうな顔で両手を広げた。伊織は女性の前に進み出ると、その華奢な身体をそっと抱きしめる。日本で生まれ育った千鶴には馴染みがないけれど、どうやら挨拶のハグのようだ。

「すみません、どうにも仕事が忙しくて。お祖母様も元気そうですね」
「ええ、この通りよ」

(お祖母様?)

千鶴は女性の若々しさに驚きつつ、ふたりの様子をただじっと見つめていた。

「今日はもう店じまいですか? 実はこれから食事を行くのに、彼女に似合うドレスを見立ててほしくて連れてきたんです」

伊織が振り返り、千鶴に紹介してくれる。

「日高さん。彼女はこの店のオーナー兼デザイナーの西澤奈津子。俺の祖母なんだ」
「いらっしゃい。ようこそ、魔女の城へ」