口説かれているわけではないとわかっているのに、思わせぶりな発言につい顔が赤くなる。いちいち動揺してしまうのは、千鶴に男性との交際経験が一切ないせいだ。
「ほら、写真を撮るんだろう?」
「あ、そうでした」
千鶴は無意識に握りしめたスマホを構え、目に映る美しい景色を切り取っていく。家族にはもちろん、体調不良で来られなかった友人にも送るつもりだった。彼女からは『私の分まで楽しんできて!』とメールをもらい、おつかいも頼まれている。
きっと千鶴が気兼ねなく旅立てるようにとの気遣いだろう。その言葉に甘えて満喫し、おつかいとは別にお土産も買って帰ろうと決めている。
ぐるりと一周回って写真を撮り終えるとエレベーターで降り、第一、第二展望台からの景色も堪能して地上へ戻ってきた。
「さて、このあとの予定は?」
時計を見ると午後一時。まだしばらくは観光を楽しめる時間だ。
「シャンゼリゼ通りへ行こうと思っています。一緒に来るはずだった友人にお土産を買いたくて」
「そのあとは?」
「余裕があればグラン・パレを見て、あとは近くのカフェかホテルで夕食をって考えてます」



