策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


彼らが店に入ってきた瞬間、千鶴は雷に打たれたような感覚に陥り、ただ呆然とその中のひとりを見つめた。

母に小突かれ我に返ったものの、予想外の再会に喜びと驚きが入り混じり、ずっと心が浮足立っている。

他に数名SPと思われる黒服の男性がいたが、彼らは店の外で待機するらしい。この店に訪れる客には護衛の者がついている場合も多々あるため、千鶴も母もそうした対応には慣れていた。

「ようこそお越しくださいました。本日はお酒と一緒に楽しめるコースと承っております。まずはこちらより、お好きなお酒をお選びくださいませ」

女将である母が上座に座るダニエルに向けて日本酒の銘柄が書かれたメニューを指し示すと、彼の向かい側から日本人男性が流暢なフランス語で通訳する。

ダニエルは五十代後半くらいだろうか。白髪交じりのブラウンの短髪に、丸い黒縁眼鏡がトレードマーク。来店するなり千鶴や母に親しみのこもった笑顔を向けてくれた、優しげな雰囲気の男性だ。

千鶴は男性たちが酒を選ぶ様子を母の後ろから眺めながら、ドキドキと収まらない鼓動を少しでも落ち着かせようと胸に手を当てた。