千鶴の場合、スカイツリーには何度もショッピングに出かけているけれど、展望台に登ったことはない。いつでも行けると思うと『今日じゃなくてもいいか』と思ってしまい、結局は登る機会を逃したままだ。
(西澤さんも、たまたま知り合った私をきっかけにしてエッフェル塔に登りたいって考えたのかも)
千鶴はそう納得して「エッフェル塔、楽しみですね」と伊織に笑いかけ、止まっていた手を動かし始める。
外はカリッと、中はふわふわのパンは口に入れた瞬間に小麦の甘い香りが広がり、目を見張るほどおいしい。
「……日高さん。君、お人好しだけじゃなくて、天然とか鈍感って言われない?」
ため息をついた伊織に問いかけられるが、特に心当たりはない。
「いえ?」
なぜそんな風に思ったのかと疑問に感じたが、伊織はそれ以上語らなかった。
そして食事を終えると、彼の提案通り歩いてエッフェル塔へ向かう。
当然、会計は千鶴がする予定だったのに、いつの間にか伊織が済ませてしまっていた。さらにエッフェル塔に着いた途端、チケットまでも彼が支払ってしまい、千鶴は困惑しきりだ。



