策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


そのセリフを額面通りに受け取るのなら、先ほどの『俺が守る』という発言の頼もしさも相まって、まるで伊織が千鶴を口説いているかのように聞こえる。

けれど目の前に座る男性は、異国の地でも周囲の女性の視線を集めるほど整った容姿を持ち、さらに外交官という職業に就くエリートだ。

初対面の、それも平凡を絵に描いたような自分を口説こうとするはずがない。

千鶴はそう結論付け、彼の言動の意味を推察し始める。

「西澤さん、エッフェル塔に登ったことありますか?」

千鶴の問いかけに伊織はなぜかガクッと肩を落としたが、きちんと質問に答えてくれる。

「いや。こっちに赴任してきた時に、有名な観光名所くらいは回ろうと思ってたんだけど。実際は通りかかるだけで登ったことはないな」
「あ、それで……」

伊織の回答を聞き、千鶴は何度も小さく頷いた。

自分にも覚えがある。観光名所と呼ばれる場所は、地元にあると逆に訪れたことがないままだったりするのだ。