得意げな顔をした伊織に、千鶴も自然と笑顔になる。
あまり男性とふたりきりで過ごす機会のない千鶴だが、彼には相手を警戒させない雰囲気が自然と備わっているように感じた。
「じゃあ、ご一緒してもいいですか? さっきのお礼にランチをご馳走させてください」
初対面の名前と職業しか知らない男性についていくなんて、普段の千鶴にしてみればありえない行動だ。
伊織に言った通り、スリに遭うのを未然に防いでもらったお礼をしたかったのもある。
けれどそれ以上に、こんなにも洗練された男性から食事に誘われるなんて、海外旅行という非日常の中でしか味わえないのではと思ったのも正直な気持ちだ。
いつもと違う行動に出ても許されるような、少しだけ冒険してみたいような、そんな気分だった。
「決まりだ。行こうか」
伊織に促されて向かったのは、パリの中でも高級住宅地が広がる七区にあるカフェレストラン。
ワイン色の大きな屋根のついたテラス席があり、〝パリのカフェといえばこんな感じ〟というイメージを体現しているような店だ。



