策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


優しく微笑む彼の言葉が、心にじんと沁みる。

千鶴もエッフェル塔に登るのを楽しみにしていたけれど、それよりも目の前の困っている人を放っておけなかった。

子どもの頃から『千鶴ちゃんはお人好しだね』『騙されやすそう』などと言われてきたけれど、こういう性分だから仕方ないと自分でも諦めていたのに、まさかそんな風に言ってもらえるとは思わなかった。

「今日こうして再会するなんて思ってもみなかったけど。あの女性は大丈夫だったの?」
「はい。長旅の疲れが出ただけみたいで、今日はご夫婦で近くの公園を散策するそうです」
「夫婦で?」

伊織が驚くのも無理はない。夫婦でツアーに参加しているのなら、なぜ千鶴が付き添って帰ったのかと疑問に感じたのだろう。

「旦那さんは高所恐怖症らしくて、昨日の午後はホテルに残ってたんです。今朝おふたりにお会いして『よかったら一緒にランチでも』って誘っていただいたんですけど、ご夫婦の時間を邪魔するのも悪いからとお断りしました」
「それなら、俺が誘っても問題はないかな」

彼は「近くに美味しいカフェがあるんだ。一緒にどう?」と口の端を上げた。

「俺は西澤伊織。外務省の職員で、フランスにある日本大使館で働いてる。今日は休日で名刺は持ってないけど、怪しい者じゃないから安心して」
「外務省……西澤さんは外交官なんですか。それでフランス語も流暢だし、色々詳しいんですね」
「フランスに来て三年は経つかな。観光ブックには載ってない店も案内できるよ」