策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「あっ、私、日高千鶴といいます。なにかお礼を」
「いや、お礼をしてもらうほどのことはしてないよ。でもそうだな……日高さんは今日、自由行動なの?」
「えっ?」
「観光に来たツアー客だろう? 実は昨日、エッフェル塔近くのタクシー乗り場で君を見かけたんだ。女性に付き添ってホテルに帰るところだったかな」

たしかに昨日、ツアーに参加していた六十代の女性が体調を崩した。添乗員は一名しかおらず、彼が女性へ付き添ってはツアーの予定が崩れてしまう。

観光が滞り、他のツアー客の不満げな空気に萎縮する添乗員や女性客を見て、千鶴はついお節介を焼き、自分がホテルまで付き添うと申し出たのだ。

まさか、それを偶然彼に見られていたとは。

「観光で来たのなら、エッフェル塔はメインの場所だろう。それを見ず知らずの他人に付き添って棒に振るなんて――」
「バカだなって思いました?」

自虐的にそう聞くと、彼は眉を上げ、首を横に振った。

「まさか。心の美しい子なんだなって驚いたよ。タクシー乗り場でもずっとその女性を気遣っていてすごく印象的だったし、俺もこうありたいなって感心させられた」