策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


その日は常連客の紹介で、店を貸し切っての会食の予約が入っていた。

主賓は、この春新たにフランス大使に着任予定の、ダニエル=オベール。

大の日本好きで、料亭の会席料理を一度食べてみたいというダニエルのリクエストに応えようと本省の外交官が奔走した結果、ひだかに白羽の矢が立ったらしい。

「ありがたいお話よね。しっかりおもてなししなくちゃ」

開店前、玄関に花を活けながら張り切る母に頷いたものの、千鶴はどこか上の空で頷いた。帳簿で予約者の名前を見て以来、今日までずっと落ち着かない日々を過ごしていたのだ。

けれど母にどうしたのかと聞かれても答えに困ってしまうため、ただ黙々と客を迎える準備をする。

そして、予約時間より十分ほど遅れて三名の男性客がやって来た。

(本当に、伊織さんだ……!)