彼が言い放つや否や、女の子は潤んでいた瞳をキッと吊り上げる。
『クソッ、最悪! 邪魔しないでよ!』
同情心や庇護欲を掻き立てる佇まいが一瞬にして霧散する。大きな舌打ちをしたかと思うと、彼女はくるりと身を翻して雑踏に紛れていった。
(え、なにが起こったの……?)
たった一分足らずのやり取りだった。
ほんの少し前までは連絡が取れない心細さに泣いていた少女が、こちらを睨み悪態をついて去っていくのを目の当たりにし、千鶴は唖然とする。
すると、千鶴の手を掴んでいた男性がこちらに向き直り、小さくため息をついた。
「同じフレーズしか喋らなかっただろう。彼女はたぶん、アジア人を見つけてはさっきのように話しかけ、スマホや財布を奪おうとするスリだ。日本人はスリへの警戒が甘く、気質が優しいと思われているからカモになりやすい」
「えっ、あんなに若い女の子が……ですか?」
「若い女性の方が警戒されにくいからな。実行役をさせられているんだろう。もし多少警戒されたとしても、涙のひとつでも見せれば騙せると踏んでいるんだ」



