策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「ワタシ、電話オトシタ。トテモ困ッテル。電話カシテホシイデス」
「電話? あ、スマホを落としてしまったということですか?」

ところどころ不明瞭な発音のせいで聞き取りづらかったが、スマホを落としてしまったため困っているのだと理解した。

「ワタシ、連絡トリタイ。電話カシテホシイデス」
「でも、それならまずは警察に行った方が。きっとそこで電話も借りられると思いますし」
「電話カシテホシイデス」

彼女は千鶴の質問に答えるでもなく、必死に同じワードを繰り返す。千鶴は訝しんで彼女をじっと見つめた。

ここフランスのパリは世界屈指の観光地で、美しい街並みや歴史的建造物が数多くある華やかな都市だ。その反面、観光客を狙うスリが多いとも知られている。

バッグは斜めがけにする、現金は小分けにして持つ、混んでいる電車は見送るなど、日本を発つ前に対策を調べ、どれも実践済みだ。

だからこそ唐突に声をかけられ、千鶴は正直少し警戒していた。

(でも、もし本当に困ってたら……? それにこの子、きっとまだ十代だよね)