まだ三キロにも満たない柔らかい身体を、ベビーベッドからそっと抱き上げる。先ほど授乳したばかりだからか、今はぐっすりと眠り、小さな寝息を立てている。
「ふふ、見てください。またしゃっくりしてる」
「本当だ。動画撮っておこうかな」
「えっ、昨日も撮りましたよ?」
「今日は退院用のおくるみだから別物だよ。レースたっぷりでお姫様みたいだろ」
伊織はポケットからスマホを取り出すとカメラを起動し、しゃっくりをする娘を真剣に撮影している。早速親バカぶりを炸裂している彼に、千鶴はくすくすと笑った。
「じゃあ、またお義母さんたちに送ってあげてくださいね。今日もいらっしゃらなかったから」
入院中、両親や兄夫婦は陽茉梨に会いに来たが、伊織の両親は『産後は大変だし、気を遣わせると悪いから』と来訪を遠慮していた。
たしかに実の両親とは違い、過去に数回しか会ったことのない伊織の両親を出迎えるのに、ボサボサ頭やすっぴん顔でいるわけにはいかないが、産後間もない千鶴には身なりを整えるだけの余裕はない。出産経験のある義母はそれをわかっていて、病院に来るのを控えていたのだろう。



