「病院で妊娠が確定したら、母に相談してみます。私はつわりがひどくないのなら産休まで続けたいなって思ってるんですけど、伊織さんは反対ですか?」
千鶴がひだかでの仕事を大切に思っているのは十分に理解しているし、それを取り上げるつもりもない。けれど、身体の中でひとりの人間を育てるのだ。負担があって当然だし、体調が優れない日も出てくるだろう。
彼女がとても頑張り屋なのを知っているからこそ、お客様のためにと無理をしてしまいそうで心配だった。
「反対はしないよ。ただ、約束してほしい。自分の体調と相談して、絶対に無理はしないって」
伊織の思いを受け取った千鶴が、神妙な顔つきで「はい」と頷く。
「私が無茶すれば、この子も苦しくなっちゃいますもんね」
まだなんの膨らみもない自分の腹部に手を添える彼女からは、すでに母性のようなものが溢れている気がした。千鶴ならば、優しく素敵な母親になるだろう。
「そうだ、今度城之内の奥さんを紹介するよ。五歳の子供がいるんだ。雨宮の奥さんとも仲がいいらしいから、千鶴の体調がよければみんなで会おう」
外交官の妻という立場である彼女たちについて、先ほどふたりから聞いた話を伝えると、千鶴は嬉しそうに目を輝かせた。



