「嬉しいよ、本当に」
身近に幼い子供はいないが街中で見かければ素直に可愛いと思うし、千鶴との子供ならなおさらだ。彼女に似た愛らしい女の子でもいいし、優しくて周囲に愛される男の子でも可愛い。
舞い上がる気持ちとともに、父親になるという大きな責任を感じる。そんな心の内をきちんと言葉にして伝えると、千鶴は頬を染めながら嬉しそうに頷いた。
「そう言ってもらえて、私もすごく嬉しいです」
「病院には、まだ?」
「はい。実はさっき検査薬を使ってみたばっかりで」
「そっか。じゃあ産婦人科をいくつか調べてみよう。体調は悪くない? 今日もずっと立ちっぱなしだったよね?」
つわりがどのくらいの時期から出てくるものなのか、妊娠中はどう過ごすべきなのか、初めてのことでまるで知識がない。
「今のところ大丈夫です。つわりの時期はもう少し先だと思います。私の親友は、つわりが結構ひどくて」
つわりは船酔いのような感覚が数週間続くと言われているようだが、千鶴の義姉にあたる女性は水分も飲めずに入院した経験まであるらしい。壮絶な経験談を聞くと、途端に心配になってくる。
「仕事は続けるの?」
伊織が尋ねると、こちらに寄りかかっていた千鶴は身体を起こし、真剣な眼差しを向けてくる。



