慌てる千鶴を促し、マグカップを持ってソファーへ座る。用意されていたのは、伊織の分だけだった。
「コーヒーありがとう。千鶴は飲まないの?」
「あ、私は今、コーヒー飲めないんです」
「え?」
意味がわからずに隣に視線を向けると、千鶴は意を決したように姿勢を正した。。
「じ、実は……赤ちゃんが、できた……と、思います」
千鶴の言葉を聞いた瞬間、伊織は息をのんだ。
「本当に?」
「はい。検査薬を試してみたら陽性だったんです」
単純に驚いたのち、じわじわと腹の底から喜びが迫り上がってくる。
しかし、当の千鶴はまだなにか言いたそうに口をパクパクさせている。
「それで、あの……」
「ん?」
彼女はちらりとこちらを見上げると、「伊織さんは、喜んでくれますか?」と心細そうに問いかけてきた。



