策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「ただいま」

帰宅したのは午後九時を少し回った頃。

千鶴には同期のふたりと飲みに行くと連絡していたため、彼女は「早かったですね」と驚きながら出迎えてくれた。

「明日はお休みですし、もっと遅くなるのかと思ってました」
「そのつもりだったんだけど、急に千鶴の顔が見たくなったから帰ってきた」

伊織が千鶴を抱きしめながら告げると、腕の中にすっぽりと収まった彼女の耳がみるみるうちに赤く染まる。

「ま、毎日会ってるじゃないですか……」

伊織の胸に顔を埋めたまま千鶴が呟く。恥ずかしがりながらも、嬉しさを隠しきれていない声に、愛おしさが募った。

さらにぎゅっと強く抱きしめると、千鶴は身じろぎをして顔を上げる。

「あ、それよりほら、着替えてきてください。その間になにか飲むもの準備しますね。コーヒーでいいですか?」
「あぁ、ありがとう」

名残惜しいが千鶴を解放する。頭をぽんぽんと撫でると、彼女は眉を下げて笑った。

(なんとなく、いつもと感じが違うような気がするけど……)