(彼女の素行の悪さは元々研究所内で不安視されていたからな。一度会っただけでも、玉の輿に乗りたいという魂胆が透けて見えていたし。本人は優秀だし、有名大学の教授の娘だからと目を瞑られていた部分があるようだけど、日本のメンバーからしたら今回の移籍はホッとしただろう)
今頃はインドのムンバイにある研究所で、優秀な研究者たちに囲まれているはずだ。現在、インドはAI分野で急成長を見せており、国をあげてAIイノベーションに投資している。本来ならば、彼女の能力には見合わないほどの素晴らしい研究所だ。
「華やかな社交界とは無縁の環境に身をおいて、AIのさらなる発展に尽力してもらおう。本人もそれを望んでいたようだしな」
伊織が取ってつけたように言うと、ふたりは吹き出すように笑った。
「怖っ。お前が噂を広げた張本人だろ。デジタル庁の副大臣はひだかの常連で、そこの看板娘をいたく可愛がってるって聞いてるぞ」
「さぁ? でも、人脈作りは大事だって実感したよ」
「それを笑って話すんだから、やっぱり西澤が一番腹黒いな。絶対に敵に回したくない」
「お互い様だろ」
ふたりはダニエルの側近が必死になって揉み消してきた数々の不祥事の詳細を、たった一日で集めてきたのだ。彼らだって相当な人脈と腹黒さを持っているに違いない。
それに、千鶴にSPをつけていた伊織をからかうふたりだが、彼らもまた愛妻家である。仕事についての話がひと通り終われば、話題はそれぞれの妻や子供のことへと移った。
城之内はすでに息子がいて、休日には大抵ヒーローショーへ行くらしい。堅物の彼が柔らかい表情を見せるのは、家族の話をしている時だけだ。



