策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


ここは多国籍料理を出す居酒屋だ。世界中の地酒を取り揃えており、気に入ってよく使っている。

肉料理などメインとなる食事はもちろん、軽い酒のツマミも豊富に種類があり、飲みながら食事をしたい時にはうってつけだ。

三人ともに長身で人目を惹く容姿をしているため、揃っているとなにかと注目されるが、隠れ家的なこの店ではそういった煩わしさもない。金曜の夜ではあるが、いつもと変わらぬ穏やかな店内の空気感はとても居心地がいい。

注文した酒と食事がテーブルに並ぶと、伊織は「この間は、色々と協力してくれて助かった」と改めて礼を告げた。

「あのドラ息子は国に強制送還になったって?」

お気に入りのドイツビールを片手に、城之内が尋ねる。伊織とは別の部署で働いている彼だが、もう情報を手に入れたらしい。

「あぁ。ダニエルの父方の伯父がパリで木工職人をしているらしくて、そこで下働きをさせるそうだ」

エリックは私設秘書を解雇され、数日前に日本を去った。

フランス革命で知られるバスティーユ広場の東側は、パリ中心部にありながら華やかな雰囲気とは少し違った下町エリア。中世の時代から続く職人の街で、ダニエルの伯父もいまだ現役の家具職人としてアトリエを構えているらしい。

これまで父親の威光を借りて傍若無人な振る舞いをしていたエリックには、偏屈な大伯父の家に下宿するだけでも相当なストレスだろう。生真面目な男性ばかりの弟子たちと寝食をともにし、朝早くから働く生活が待っている。

甘やかされて育ち、プライドばかりが高い彼にとって、一番下っ端として弟子たちの雑用を一手に引き受けなくてはならない環境は苦痛に違いないが、そこで性根を叩き直させると話していた。