『だから、幻滅する理由なんてひとつもありません』
一点の曇りもない笑顔で言い切る千鶴に、伊織は心臓を鷲掴みにされた。
(こんなの、惚れ直さずにはいられない)
どれだけ自分が大変でも、千鶴には相手を思いやれる余裕がある。心のしなやかさと強さがあるからこそ、彼女は人に優しく寛容になれるのだ。
初めて出会った時の直感は間違っていなかった。千鶴を深く知れば知るほど、愛しさはどんどん降り積もっていく。
(だからといって、夜通し抱き潰したのはやりすぎだった……)
千鶴を利用したような後味の悪さに顔を顰める伊織を気遣い、必死に慰めようとする彼女が愛おしく、口では『俺は甘やかす方がいい』などと言っておきながら、丸ごと包み込むように愛してくれる千鶴に甘え、箍が外れてしまった。
伊織はまったく起きる気配のない妻を抱き寄せ、多少の反省をしながら自身も目を閉じた。
* * *
それから数週間後。
年末年始の浮かれたムードも落ち着いた頃、珍しく早い時間に仕事を終えた伊織は、城之内と雨宮と連れ立って本省近くの店へとやって来た。



