策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


そして、それ以上に伊織を驚かせたのは、伊織の思惑を知った際の千鶴の反応だ。

彼女の大切にしている店を盾に身体の関係を迫るような男を絶対に許せないと憤る裏には、この騒動を利用してエリックを完全に排除できると計算している外交官としての自分がいた。

それは暗に、今回の誹謗中傷の件を利用して彼を排除しようとしているのと同義だ。

伊織は同僚から『人当たりのいい穏やかな顔をしてるけど、実はいちばん策略家で腹黒だ』と言わしめるだけあって、元来合理的な思考を持ち、感情を排除して効率的に仕事をするのを好んでいる。

外交官は国家同士の交渉など大役を担うため、感情だけで動くわけにはいかない。常に冷静に対峙し、相手の言葉の裏を読み、優位に立てる道筋を模索し、職務を全うする。それが伊織の日常だったし、仕事に対するモットーでもある。

千鶴が知ったらどう思うだろう。幻滅されるのではないか。狡猾で策略家と呼ばれる自分の顔など、彼女には隠しておきたい。

そう考えなかったわけではないけれど、彼女に対してはいつだって誠実でいたいという思いが勝った。

躊躇いながらも、これを機にエリックを外交の世界から引き剥がすところまで持っていくつもりだと話すと、彼女は協力を申し出てくれた。

さらに、千鶴を囮にしてしまったという伊織の自己嫌悪を一蹴したのだ。

『伊織さんがとった行動は間違っていません』

千鶴やひだかを救っただけでなく、このまま彼が問題を起こし続けていけば増えるであろう被害者をも救ったのだと、彼女は訴える。