策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


伊織はすぐに同僚である城之内や雨宮に連絡を取り、これまで揉み消されてきたエリックの不祥事にまつわる情報をできるだけ多く集めたいと協力を求めた。優秀なふたりが一日かけて十分な量の情報と証拠を収集してくれたため、彼の本性を暴くには十分だった。

行動するなら今しかない。これまでうやむやにされてきた彼の悪行をすべてダニエルに明かし、排除するのだ。

しかし今回のひだかの件については、エリックが人を使ってネットに誹謗中傷を書かせているのだろうと推測はできたが、言い逃れできない証拠を集めるには時間が足りなかった。

そこで、千鶴にはなにがあっても絶対にホテルの客室には上がらないのを条件にエリックと対面するのを許し、本人の口から経緯を説明させる方法をとることにしたのだ。

本来ならばエリックの視界に千鶴を入れるのすら不快で、最後まで別の手段はないかと模索していたが、最終的に証拠を得るのには一番確実な方法だと自分を納得させた。

そうしてダニエルに息子の本性を見せつける手筈を整え、声が聞こえるギリギリの位置で待機し、エリック本人の口から脅迫の言葉や、人を雇ってネット上に誹謗中傷を書き込んでいるという趣旨の言質を取ることができた。

毅然とした態度で誘いを断る千鶴に苛立ったエリックが彼女の腕を掴もうとしているところで、伊織は怒気を纏わせ飛び出した。

『に、ニシザワ……! どうしてここにっ! 離せ!』
『話は聞かせていただきました。ネットに誹謗中傷を書き込むのも、それを使って他人を脅すのも犯罪だ。なにより妻を傷つけられて、私があなたを許すとでも?』
『ハッ、ただの一外交官になにができる。誰のおかげで手柄が立てられたと思ってるんだ! リュカに渡りをつけたのは僕なんだぞ!』