そのためには過去の不祥事の情報だけでなく、現在エリックがなにをしでかしているのかという決定的な証拠が必要だったのだろう。
伊織は離れた場所からエリックがラウンジの千鶴と合流したのを見計らい、ダニエルを連れて近くの席で一部始終を聞いていたのだ。
「わかってはいても、殴りかからないように自分を抑えるのが大変だった」
それだけ伊織が自分を案じてくれていたのだとわかり、千鶴は労わるように伊織を抱きしめた。幼い子供相手にするように頭をぽんぽんとたたくと、意外にも彼の髪質は細くてふわふわと柔らかい。
「それに……千鶴は俺に幻滅しなかった?」
「幻滅? どうしてですか?」
あり得ない問いかけに千鶴は目を丸くしたが、伊織の声は不安げだった。
「千鶴も、千鶴の大切な場所も守ると誓って結婚したのに、それを果たせなかった」
「そんなこと」
「それに、ひだかの誹謗中傷の件を聞いて、卑劣な手段を使うエリックに苛立ったのと同時に、あいつを排除する好機だとも思った。千鶴やご両親が心を痛めていたのに、俺はそれを利用したんだ」
まるで懺悔するように、伊織は顔を伏せたまま。
千鶴はそんな彼の髪を梳きながら何度も撫で、「それのなにが悪いのか、私にはわかりません」と静かに口にする。



