策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


千鶴は笑顔で首を振った。

「ダニエルさんに伝えたのは本心です。きっと両親も同じように言ってくれると思います。それより、伊織さんの方が」
「俺?」

千鶴に向ける表情はいつもと変わらないように見えて、瞳には隠しきれない不機嫌さが滲んでいる。

「今朝からずっと、怒ってますよね?」

エリックからの電話の件を話して以来、伊織はずっと険しい表情だった。彼は驚いた表情を見せたあと、少しバツが悪そうに小さく呟く。

「……苛立ちもするよ。俺の千鶴にあんな話をされれば」

禁欲的なヤマトナデシコを汚したいとか、レセプションの時はまだ男を知らなかったとか、千鶴にとっても鳥肌が立つほど気持ちの悪い話ばかりだったが、自分以上に怒ってくれる人がいると冷静になれるらしい。

むっとしながら告げる伊織に、つい笑みが浮かぶ。『俺の千鶴』という言葉に、彼の独占欲が詰まっている気がした。

「……笑い事じゃないんだけどな。千鶴を囮にしたみたいで、すごく後味が悪い」
「すみません。でも、ふたりで話し合って決めたじゃないですか。私がエリックさんと対面して話を引き出すって」

今朝、千鶴の実家の件を解決するだけではなく、エリックを外交の世界から引き剥がすところまで持っていきたいと伊織から聞いていた。同僚にも声をかけて動いてもらい、彼を排除する道筋を用意したという。