エリックは伊織の仕事相手の私設秘書だ。もしかしたら迷惑をかけてしまうかもしれない。彼の仕事に支障が出てしまうかもしれない。それでも、千鶴は伊織に頼る決断をした。
昨夜は色々と考え疲れて伊織の帰りを待たずに眠ってしまったが、今朝起きてすぐに彼に相談し、彼の助言のもとエリックをラウンジへと呼び出したのだった。
「でもまさか、ダニエルさんも一緒だなんて思いませんでした」
入口からソファへと移動し、ふたりで温かい紅茶を飲みながら話を続ける。
「現場を見せるのが一番だと思ったからね。エリックはあんなだけど、ダニエル大使は正義感や使命感が強い。きっと息子だからと甘やかさないだろうという確信もあったんだ」
「じゃあ、どうしてこれまで周囲の人は彼の問題を揉み消したりしてたんでしょう?」
「それこそ、大使の正義感の強さ故じゃないかな。息子の問題が明るみに出たら、彼は立場のある地位を辞めかねない。優秀な外交官を息子の不祥事なんかで失いたくなかったんだろう」
伊織の考えを聞き、千鶴は不安になった。
「それなら、今回のことで大使を辞任なんてことに……」
「大丈夫、それは俺からうまく話すから」
ほっと安堵のため息をつくと、伊織は眉尻を下げた。
「本当に、千鶴は優しいな」
「え?」
「さっきから、自分よりも他人の心配ばっかり。ダニエル大使にあぁ言ってたけど、無理はしてない?」



