策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「ダニエルさんは、ひだかを素晴らしい店だと仰ってくださいました。それから、店側にも客を選ぶ権利があるとも。それなら、私はダニエルさんにいらしてほしいです」
「千鶴……」

正直に言うと、今はエリックの顔は見たくないし思い出したくもない。けれど、ダニエルは恵梨香が来店した際に千鶴を庇って立ち上がってくれた。料理だけでなく、接客を含めてひだかのおもてなしなのだと褒めてくれた。

そんな彼が息子の不始末で来店を避けてしまうなんて残念だし、なにより寂しい。そんな思いを込めて、心からの笑顔で伝える。

「先日は鰤でしたが、これからの季節は牡蠣や蟹も美味しいんですよ。春には筍や金目鯛も」

ダニエルは丸い眼鏡の奥で何度も瞬きをすると、もう一度千鶴に頭を下げた。

「ありがとう」

そして、今度こそラウンジをあとにした。


ダニエルを見送り、自分たちもそのまま自宅に帰るのかと思いきや、伊織は千鶴の肩を抱いたままフロントを通って最上階の客室フロアへと足を向ける。

部屋に入ると、豪華な内装に驚く間もなく彼に抱きしめられた。そのあたたかさに、緊張の糸がするすると解けていくのを感じる。

「伊織さん、今日は本当にありがとうございました」

千鶴は頼りがいのあるその背中にぎゅっと腕を回す。