ダニエルは大声で怒鳴りはしないものの、憤慨している様子が伝わってくる。エリックもなにか反論をしているようだが、彼に普段の優しげな雰囲気は一切ない。眉間に皺を寄せ、片手で顔を覆ってため息をついている。
人を雇ってネットに誹謗中傷を書かせ、それをネタに千鶴を強請っていたと、たった今エリック本人の口から悪びれなく語られたのだ。息子に対する失望は想像に難くない。
ダニエルが後ろに控えるSPに目配せをすると、黒服姿の男性が抵抗するエリックの両脇を囲み、ラウンジから連れ出していった。
千鶴には知らされていなかった展開に驚き戸惑っていると、ダニエルがこちらに向き直った。
「千鶴さん。息子が本当に申し訳ないことをしました」
そう言って深く頭を下げられ、千鶴は慌ててまう。
「そんな……っ、頭を上げてください」
「いや、これでも足りないくらいだ。どう謝ったらいいのか……」
息子を叱責したものの、彼もまだ事態を飲み込めていないように見える。
「西澤くんが知らせてくれなければ、私は今後もエリックの悪行を知らずに生きていくところだった。彼は千鶴さんだけでなく、過去に本国でも多くの女性に対して酷い行いをしていたようだ。彼の上司としても父親としても、情けない思いだよ」
エリックが『なにかあれば父の側近が頑張ってくれていたからね』と言っていた通り、これまでは問題を起こしたとしてもダニエルの耳に入らないように周囲の人たちによって内密に処理されていたのだろう。



