策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


顔を歪めて憤慨しているエリックを見ながら、内心で首をかしげた。婚約者というのを『嘘』だと確信しているのも気にかかるし、彼の言う『黒服の男』に心当たりが一切ない。

『あのレセプションの時は、君はまだ男を知らなかったはずだ。違うかい? そういうの、僕はにおいでわかるんだよ。だから本当に結婚したのは意外だったけど、まぁいいや。処女だと色々と面倒だからね。ニシザワに腹は立つけど、どんな手を使ってでも千鶴を手に入れたくなった。僕に献身的に奉仕すれば、ちゃんと望みは叶えてあげる。ちょっと時間はかかったけど、そのために何人も雇ったんだからね』
『……雇った?』

膝の上でこぶしを握り、耳を塞ぎたくなる話に耐えたが、さすがに最後のひと言は看過できなかった。じっとエリックを見据えると、彼はバカにしたように両手を上げて見せた。

『まさか、この一ヶ月で誹謗中傷のレビューが急増しているのは偶然だとでも思ってたの? ヤマトナデシコはとんだ鈍い女だな』
『……まさか』

千鶴は目を見張った。

(全部、この人が……?)

誹謗中傷が突如増えたのは、すべてエリックの仕組んだことだったのだ。唇で弧を描く彼を唖然と見つめる。

『これまで僕が望んで手に入らなかった女はいないんだ。それに、僕をバカにした奴は許さない。君も、僕を利用して功績を上げたニシザワも、上客として迎え入れなかったヒダカも』