けれど、当然まったく嬉しくないし、シャンパンに罪はないがとても飲む気にはなれない。
そんな千鶴の心情を見越しているのか、エリックはゆっくりとグラスに口をつけながら面白そうにこちらを眺めている。
『さっきの話だけど。もちろん、君の努力次第ですべてを消すことができる』
『私の、努力……?』
意味がわからず首をかしげると、彼は『ここに来たんだから、タダではないとわかってるだろう?』と顎を反らして笑った。
下卑た視線で上から下まで舐め回すように見られ、ぞわりと鳥肌が立つ。あまり他人に対してネガティブな印象を持たない千鶴だが、嫌悪感に身震いするほどだった。
それでも千鶴は懸命に耐え、彼との会話を繋げようと試みる。
『あの、お金なら――』
『そうじゃない』
エリックはニヤけた表情から、一気に眼差しを鋭くして睨みつけてきた。千鶴が黙って口を引き結ぶと、エリックは怒涛のように喋りだした。
『せっかく日本に来たんだ、淑やかで禁欲的なヤマトナデシコを汚してみたいと思ってたんだよ。それなのに君は僕に靡かないどころか、婚約者だと嘘をついてニシザワを父に紹介してしまった。日本にいる間は君を側に置いてやろうと思っていたのに。なんなんだ、あの嫌みな男は。店の周辺に黒服の男を置いたもの、どうせあいつの差し金なんだろ』



