策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「あら、そんなことがあったの」
「うん。ちょっと距離が近いなとは思ったんだけど、本当になにを言ってるのかわからなかったし、もしかして酔って具合が悪いのかなって」

伊織は申し訳なさそうに眉を下げ、声を落として言った。

「ダニエルはとても優秀な外交官なのですが、私設秘書を務める息子のエリックはその、女性に対して手が早いという噂がありまして……」
「まぁまぁ。どこの国にも放蕩息子っているのねぇ」

母が呑気にそんなことを言っている横で、千鶴はなるほど、と納得した。

伊織はそれを知っていたからこそ、あの時主賓であるダニエルを部屋にひとり残してまで、わざわざ様子を見に来てくれたのだろう。そして案の定、千鶴に絡んでいるエリックを発見したのだ。

噂を知っていたのに未然に防げなかったのを気に病んで謝罪に来てくれるなんて、律儀で真面目な人だと千鶴は感心する。それと同時に、一抹の不安を抱いた。