策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「今日は不快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」

店に入るなり千鶴に向かって頭を下げる伊織に、両親は目を丸くしている。千鶴は慌てて彼のそばに駆け寄った。

「そんな……、西澤さんが謝る理由なんてないじゃないですか。顔を上げてください」

伊織は顔を上げたものの、納得していないのか険しい表情をしている。千鶴は言葉を続けた。

「むしろ私がフランス語がわからないせいでご迷惑をおかけしてしまって……。西澤さんが間に入ってくださったおかげで助かりました。ありがとうございました」

千鶴は彼に礼を伝えると、事情がわからずぽかんとしている両親に事情を説明した。

客商売をしていると、いくら紹介制といえども困った客が来店することもあるため、母は特に驚きもしない。父と兄は顰めて話を聞いていた。