策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「そんな、だって……本当に?」
「まだ疑ってる? 結構わかりやすく口説いてたつもりなんだけどな。初対面の女性を食事に誘って、そのあとも一日観光に付き合うなんて、好意がないとしないよ。なにより、俺は好きな人とじゃないと結婚なんてしない」

ずっと、この結婚は愛のない契約結婚だと思っていた。

彼に想われていた喜びと信じられないという気持ちがないまぜになり、千鶴は彼の腕の中から抜け出し、ふるふると首を振る。

「で、でも、そんなこと一度も……」
「パリの夜、俺が千鶴を誘ったのを覚えてる?」

唐突に尋ねられ、千鶴は面食らいながらも頷いた。覚えてるに決まっている。あの誘いにのっていたらどうなっていたかと、千鶴は何度も考えたのだ。

すると、伊織は「あれが失敗だったんだ」と眉間に深い皺を寄せた。

「千鶴を俺のものにしたいという気持ちばかりが急いて、好きだと告げる前に誘ってしまった。そのあとにいくら『好きだ』って言っても、カラダ目当てと思われそうで……」