策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


あの時のエリックはあきらかに千鶴の身体に性的に触れようとしていたし、無理やりキスをされていた可能性もある。

酔っ払ってセクハラまがいな言動をする男性客は過去にもいたけれど、彼ほど強引な振る舞いはされたことがない。

もしも伊織が来るのがあと一歩遅ければ。そう考えると、恐怖で全身に震えが走る。

(助けてもらったの、二回目だ……)

前回はフランスでスリの被害に遭いそうなところを未然に防いでくれた。お礼に食事をご馳走するはずが、結局は彼がすべての支払いをしてしまったのを思い出す。

伊織の連絡先は予約時に聞いているはずだが、店として把握している個人情報を千鶴が勝手に使用するのは気が引ける。そうなると、彼の言っていた『あとで』を信じて待つしかない。

連絡がくるとしたら明日か、それとも明後日か。伊織は忙しいだろうし、もっと先かもしれない。

そんな風にやきもきしている千鶴の予想を裏切り、伊織は退店から二十分後に再びひだかを訪れた。