策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「ちょ、待って! どうして必要ないなんて考えになった?」
「もし私がもっと頼りがいがあったら、妻としての役割を任せてくれたりするのかなって」
「妻としての役割?」
「実はさっきネットで少し調べたんです。パーティーでのマナーとか語学とか、そういうのは学んでおいた方がいいって書いてありました。私、そういうのなにも知らなくて、でも伊織さんはなにも言わないから、私はいてもいなくても同じなんじゃないかなって」
「違う!」

いつになく慌てた様子の伊織に、両肩をぐっと掴まれる。

「千鶴がいてもいなくても同じなんてあり得ない。俺が君を手に入れるためにどれだけ焦ってたか、もう忘れた? 千鶴を絶対に逃がしたくなくて外堀を固めて、戸惑ってるってわかってたけど強引に進めたんだ。そのくらい、俺は君と結婚したかった」

婚約者の振りをしたその日にプロポーズされ、翌日には両親に挨拶を済ませ、一ヶ月後には入籍した。トントン拍子のスピード感に戸惑っていたけれど、それが千鶴を逃さないためなのだとしたら……。

じっと見つめる眼差しは真剣そのもので、千鶴の心臓は破裂しそうなほど大きく鼓動を刻んでいる。

(その言い方だと、本当に私を好きだって聞こえる……)