策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


先程までの苛立ちや不快感は消え去り、心がぽかぽかとあたたかくなった。伊織が好きでたまらなくて、なぜか涙が浮かんでくる。

「泣くほど辛かった?」

伊織の長い指が、千鶴の目尻に滲んだ涙をそっと拭う。

「あ、これはそうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
「伊織さんが私を心配してくれたのが嬉しくて、つい」
「当たり前だ。大切な妻が悪質な客に嫌がらせされたなんて聞いて、平然としていられるわけがない」

真剣な口調で断言され、頬が緩んだ。『大切な妻』と彼の口から聞けただけで、これまで胸に巣食っていたネガティブな感情が吹っ飛び、幸せでいっぱいになる。

「ありがとうございます。伊織さんにとって、私はあまり必要ないんじゃないかって考えてたから、そう言ってもらえて嬉しいです」

ついぽろっと本音を零すと、伊織の瞳が驚愕に染まった。