顔を背けて寝室へと引っ込むつもりが、ぐいっと腕を引っ張られた。 「こら、待って。なんで泣いてるの」 「いえ、あの、これは」 「俺には話せない?」 ふるふると首を振る。 「千鶴」 諭すように名前を呼ばれて向き直ると、彼は心配で仕方ないといった表情でこちらを見つめている。千鶴は観念してもう一度ソファに腰を下ろした。 「た、たいした話じゃないんです」 「うん」 「今日、あるお客様にうまく対応できなくて……自分が情けなくて」 ぽつぽつと語りだす千鶴に、伊織は急かさずに耳を傾けてくれる。